大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)66号 判決 1966年10月28日
大阪市北区南同心町二丁目二七番地
原告
長尾容器株式会社
右代表者代表取締役
長尾伊三雄
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
大阪市北区中之島四丁目一五番地
被告
北税務署長
和田信二
右指定代理人
樋口哲夫
同
上田保夫
同
石黒俊一
同
勝端茂喜
右当事者間の昭和三九年(行ウ)第六六号法人税更正決定取消申立事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者双方の申立)
第一原告の申立
被告が昭和三七年三月三一日付で原告の昭和三五年七月一日から同三六年六月三〇日に至る事業年度の法人税についてなした更正決定を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求めた。
第二被告の申立
主文と同旨の判決を求めた。
(当事者双方の主張)
第一請求の原因
一 原告は、昭和三六年八月二九日に被告に対し同三五年七月一日から同三六年六月三〇日までの事業年度(以下本件事業年度という)の法人税について、所得金額を金一、二〇三、七二八円として確定申告したところ、被告は同三七年三月三一日付をもつて原告の本件事業年度の所得金額を金一七、四八七、五六三円として更正決定をした。そこで原告は同年四月二五日被告に対し右更正決定について、再調査の請求をしたところ、右再調査請求は法人税法(旧法)第三五条第三項第二号の規定により大阪国税局長に対する審査の請求とみなされ、同国税局長は同三九年三月三一日付で原告の本件事業年度の所得金額を金一二、九九一、九八二円とする原処分一部取消の審査決定をし、その頃、その旨原告に通知した。
二 ところで前記審査決定(更正決定)の理由の要旨は、「原告代表者訴外長尾伊三雄が同三六年三月一七日別紙物件目録第一記載の土地(以下本件土地という)を他に売却したことに伴い、原告は賃借中の右土地内の四一四・〇八平方メートル(一二五坪二合五勺)の借地権を譲渡し(又は消滅させ)たが、その際訴外長尾伊三雄からその対価の支払を受けなかつたので、被告は法人税法(本件事業年度当時の法人税法以下単に旧法という)第三一条の三を適用して借地権の譲渡利益(更正決定では金一五、七三四、四七一円、審査決定では金一一、二三八、八九〇円)を算定し、所得金額に加算した」というのであるが、その認定が誤つているので前記更正決定の取消を求める。なお更正決定の理由中には原告の碓定申告の額に交際費勘定の否認によつて金五四九、三六五円を加算し、また金一円の違算を発見したのでこれを減算したことが含まれているが、原告の再調査の請求は被告が借地権相当額を算定して原告の利益と認定したことを不服の理由とするものである。
第二被告の答弁
原告主張の請求原因のうち第一項および第二項中原告の主張する如き理由で審査決定(更正決定)のなされたことは認めるが、その余は争う。
第三被告の主張
一 原告は被告に対し本件事業年度の所得金額を金一、二〇三、七二八円として確定申告をしたが、その内容について次のとおり加算減算すべきものがある。
(一) 加算分 金一一、七八八、二五五円
(1) 借地権相当分の利益の計上洩れ、 金一一、二三八、八九〇円後記二、記載のとおり。
(2) 交際費勘定の否認 金五四九、三六五円
原告の代表者および専務取締役に対して交際費として支出したもののうち使途の明らかでないものを否認した。
(二) 減算分 金一円
価格変動準備金の繰入れ超過額に計算の誤りがあつたので減算した。
従つて原告の申告額金一、二〇三、七二八円に加算分金一一、七八八、二五五円を加え、減算分金一円を差引くと金一二、九九一、九八二円となり、被告のなした前記更正決定のうち前記審査決定によつて取消されなかつた部分については誤りがない。
二 被告が原告の確定申告額に借地権相当分の利益の計上洩れとして金一一、二三八、八九〇円を加算したのは次の理由によるものである。
(一)(1) 訴外長尾伊三雄は昭和三六年三月一七日その所有していた本件土地を訴外関西電力株式会社に売却する契約を締結した。右土地の売却代金は金五八、〇〇〇、〇〇〇円と定められたが、同地上には別紙物件目録第二記載の各建物等((一)は訴外長尾伊三雄、(二)は訴外長尾光雄、(三)は原告の各所有)が存在し、各所有者がこれを所有するほか訴外和田栄三等一三名の借家人が居住していたので、訴外関西電力株式会社は別に土地建物の明渡補償として金三〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払う旨約した。
(2) 原告は本件土地のうち四一四・〇八平方メートル(一二五坪二合六勺、別紙添付図面の倉庫および下屋<1><2>の敷地四五坪二合六勺とその西側の空地八〇坪)を訴外長尾伊三雄から賃借し、これを別紙物件目録第二(三)の倉庫敷地、ドラム缶置場等として事業の用に供していたが、本件土地の売買に伴い、原告の右借地権を訴外長尾伊三雄に譲渡し(又は消滅させ)、同地上より退去することになつた。ところで本件土地附近一帯は土地賃貸借に際し権利金を授受する取引慣行のある地域であり、借地権について経済的価値が認められているから借地人が借地権を譲渡し(又は消滅させ)借地から退去する場合には他に代替地の提供を受けないかぎり、借地権相当額の対価の支払を受けるのが通常である。
しかるところ、原告は右借地上から退去するに際し訴外長尾伊三雄から受領した金員は原告所有の建物の補償として金六八八、〇二九円。設備の補償として金一五、八三四円、営業補償として金九、六四九、六〇五円であり、代替借地の提供も、借地権相当額の金員の支払も受けていない。原告は右金九、六四九、六〇五円の中に借地権相当分も含まれている旨主張するが、右金員は原告の前期利益金の按分修正額の五ケ年相当額として算出された営業補償費であり、借地権相当分を含むものではない。
(4) ところで原告の右行為をそのまま容認すると法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるところ、原告は同族会社なので、被告は前記更正決定をするに当り、法人税法(旧法)第三一条の三を適用し、借地権相当分の利益があつたものとして次の計算により借地権相当分の益金一五、七三四、四七一円を原告の申告所得金額に加算した。
<省略>
(本件土地売却代金)(総面積に対する借地権の割合)(土地価格に対する借地権の価格の割合) (借地権相当額)
ところで大阪国税局長は審査決定に際し右算定の土地価格に対する借地権の価額の割合七〇パーセントが高過ぎ五〇パーセントが相当であるとして借地権の価格を金一一、二三八、八九〇円(<省略>)と認定し、右更正決定の一部を取消したのである。
(二) 仮りに、原告が訴外長尾伊三雄より受領した金九、六四九、六〇五円の中に借地権の譲渡ないし消滅に対する対価が含まれていたとしても(この場合でも原告は別紙物件目録第二(三)記載の建物、その西側のドラム缶置場、同目録第二(二)記載の建物の階下部分の本店事務所を失うことになるから守口市に工場があつたとしても営業が縮少されるとか場所的関係から少なからぬ不利益を豪ることは避け難い点からみて、右金員全額が借地権相当額とみることはできない)被告の処分には誤りがない。
(1) 本件土地は金八八、〇〇〇、〇〇〇円で売買され、その中に地上建物の価格金一〇、三〇〇、〇〇〇円が含まれていたとすれば、更地としての土地の売買価格は金八八、〇〇〇、〇〇〇円から金一〇、三〇〇、〇〇〇円を差引いた金七七、七〇〇、〇〇〇円となる。そこでこれを基準にして原告の借地権相当額を算定すると一五、〇五六、二五二円(<省略>)となるところ、通常ならば原告は訴外長尾伊三雄から営業権補償費を含めれば右金一五、〇五六、二五二円を上廻る金員を受額できたのに金九、六四九、六〇五円しか受額していないのである。ところで原告は同族会社であるから原告の右行為計算は法人税法(旧法)第三一条の三第一項の規定により否認され、その差額金五、四〇六、六四七円以上が益金に加算されることになる。
(2) 更に、原告は本件事業年度についての法人税の碓定申告に訴外長尾伊三雄より受額した補償費金九、六四九、六〇五円のうち五分の一に相当する金一、九二九、九二一円を益金に計上しているにすぎない。ところで原告が訴外長尾伊三雄から受額した右金九、六四九、六〇五円は営業補償費であつても借地権の譲渡または消滅に対する対価であつても税法上その益金の繰延べは認められていないのであるから右金員中原告が本件事業年度の益金に計上した金一、九二九、九二一円との差額金七、七一九、六八四円は当然本件事業年度の益金に加えられるべきものである。
(3) そうすると右(1)の金五、四〇六、六四七円以上と右(2)の金七、七一九、六八四円計金一三、一二六、三三一円以上は本件事業年度の益金に加算すべきもので、被告の算定を上廻るから、被告の処分には誤りがない。
三 なお原告は訴外長尾伊三雄から本件土地のうち一二五坪二合六勺を賃借していることを認め、その後賃借部分を別紙物件目録第二(三)記載の倉庫敷地四五坪二合六勺にすぎないと主張を変更したが、右は自白の撤回であるから被告は右自白の撤回に異議がある。
第四被告の主張に対する原告の答弁
一 第一項のうち(一)(2)および(二)は認めるが(一)(1)は争う。
二 第二項のうち
(一)(1)につき
訴外長尾伊三雄は昭和三六年三月一七日本件土地を訴外関西電力株式会社に譲渡したこと、同地上の別紙物件目録第二記載の建物には借家人が居住していたことは認めるが、その余は争う。本件土地売却代金は更地として金八八、〇〇〇、〇〇〇円であり、そのうち土地建物の明渡補償金(借地権の対価も含む)として金三〇、〇〇〇、〇〇〇円、建物自体の補償金として金一〇、三〇〇、〇〇〇円が含まれていた。なお右売却当時の本件土地の概況およびその使用状況はほぼ別紙添付図面のとおりであつた。
(一)(2)につき
原告は右土地のうち四一四・〇八平方メートル(一二五坪二合六勺)を訴外長尾伊三雄から賃借し、これを別紙目録第二(三)の倉庫敷地、ドラム缶置場として使用していたこと(この点につき原告は後にその主張を変更(訂正)したことは後記のとおり)、原告は右賃借権を消滅させ、右土地より退去したこと、原告は訴外長尾伊三雄から被告主張の金額の金員を受領したことは認めるがその余は争う。原告は第九回口頭弁論期日において前記のとおり原告が訴外長尾伊三雄より本件土地のうち一二五坪二合六勺を賃借していた事実は認めたが、実際原告が賃借していた土地は別紙添付図面倉庫および下家の敷地四五坪二合六勺であり、その西側約八〇坪はドラム缶等を置いて事実上使用していたにすぎないからこの点の主張を右事実のとおり訂正する。
原告が訴外長尾伊三雄から受領した金九、六四九、六〇五円は借地権の対価そのものであり、営業補償金ではない。原告は守口市に工場、事務所を有しており、訴外長尾伊三雄から営業補償費を貰う権利もなく(法律上借地人が立退料を貰う権利がない)、またその必要もない。
(一)(3)につき
大阪国税局長が審査決定にあたり、更正決定において本件土地の土地価格に対する借地権の価格割合を七〇パーセントとして算定していたのを五〇パーセントが相当であるとして更正決定の一部を取消したことは認めるが、その余は争う。本件土地のうち四五坪二合六勺は倉庫敷地であり、被告主張の八〇坪の部分は道路として使用されているにすぎないので、土地価格に対する借地権の価格の割合は前者につき四〇パーセント、後者につき二〇パーセントが相当である。
(二)につき
被告の主張は争う。
(証拠関係)
第一原告
甲第一ないし第九号証を提出し、証人中道宗一、同小梶誠市、同長尾光雄の各証言を援用し、乙第二号証の一ないし四、同第三、四号証の成立を認め、同第一号証の成立は不知と述べた。
第二被告
乙第一号証、同第二号証の一ないし四、同第三、四号証を提出し、証人清水仁一の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。
理由
一 請求の原因第一項と同第二項中更正決定および審査決定の理由の要旨については当事者間に争がない。
二 被告は原告の本件事業年度の確定申告の所得金額一、二〇三、七二八円について、被告の主張第一項記載のとおり加算、減算すべきものがあると主張するところ、そのうち(一)(2)、(二)については当事者間に争がない。
三 そこで原告の右確定申告中に被告の主張する右第一項(一)(1)の借地権の価格相当分の利益の計上洩れがあるか否かについて判断する。
(一) 成立に争のない甲第一号証、同第九号証、証人小梶誠市、同長尾光雄の各証言によると原告は容器の修理販売を業とする株式会社で訴外長尾伊三雄が代表取締役、その長男訴外長尾光雄が専務取締役をする税法上の同族会社であることが認められる(以上の認定に反する証拠がない)ところ、訴外長尾伊三雄が昭和三六年三月一七日その所有していた本件土地を訴外関西電力株式会社に売却する契約を締結したことは当事者間に争がない。
(二) ところで、右売買契約締結当時本件土地の使用状況について検討するに、成立に争のない甲第五ないし八号証、証人中道宗一、同小梶誠市、同清水仁一、同長尾光雄の各証言によると本件土地の概況および別紙物件目録第二記載の建物等の位置はほぼ別紙添付図面のとおりであること、訴外長尾伊三雄は別紙物件目録第二(一)(1)(2)の建物を所有し、その南側の造園部分とともに占有していたこと、訴外長尾光雄は同目録第二(二)記載の建物を所有し、階下部分を原告に本社事務所および倉庫として賃貸し、二階部分をアパートとして訴外柏田利子外七名に賃貸していたこと(この点についてはほぼ当事者間に争がない)、訴外長尾伊三雄の次男訴外長尾晴雄は同目録第二(一)(5)(6)(7)の建物を所有し、これを藤原国夫外三名に賃貸していたことが認められ、右他に認定に反する証拠がない。ところで、原告は本件土地中一二五坪二合六勺について賃借権を認めたが、実際賃借したのは四五坪二合六勺であるから事実に則してこれを訂正する旨主張するのに対し、被告は右は自白の撤回であるから異議があると主張するので考えてみるに、原告は訴外長尾伊三雄から賃借したのは別紙物件目録第二(三)の建物敷地の三〇坪のみであるという証人長尾光雄の証言は証人清水仁一の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証に同証人の証言、証人中道宗一、同小梶誠市の各証言に照してたやすく信用し難く、他に原告が賃借していたのは四五坪二合六勺のみであると認め得る証拠は見当らないので、原告の変更前の主張が真実に反しているものと認められないから原告の右主張の変更は被告が異議を述べている限り自白の撤回として許されない。そうすると原告は訴外長尾伊三雄から同目録第二(三)(一)(3)(添付図面下家<1><2>)の建物敷地四五坪二合六勺およびその西側の土地八〇坪合計一二五坪二合六勺を賃借し、その地上に右建物を所有し、また西側の空地をドラム缶等の置場として事業の用に供していたことは当時者間に争がない。
(三) そこで本件土地について右売買契約が成立するに至つた事情およびその代金額について考察するに前記甲第五ないし八号証、証人中道宗一、同小梶誠市、同長尾光雄の各証言によると訴外関西電力株式会社は本件土地に隣接する同訴外会社経営の病院を拡張するため本件土地を買収する必要に迫られ、訴外長尾伊三雄、同長尾光雄等と交渉を重ねた結果、右訴外会社と訴外長尾伊三雄の間で売買価格総額を金八八、〇〇〇、〇〇〇円とすることに決つたのであるが、昭和三六年三月一七日付で訴外長尾伊三雄と右訴外会社間で土地代および建物撤去補償料(但し建物は右訴外会社が撤去することになつていたので実質は建物の価格)として金五八、〇〇〇、〇〇〇円とする売買契約書を作成し、また別に長尾伊三雄、同長尾光雄、原告と右訴外会社間で右訴外会社が右訴外長尾伊三雄等三名に対し本件土地上の建物の賃借人等を排除して本件土地および地上建物を明渡す補償料として総額金三〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払う旨の覚書を作成したこと、右売買契約書と覚書を作成して名目上売買代金額を二分したのは訴外会社の意向によるものであるが右訴外会社は右売買契約書、覚書を作成するにあたつて、地上建物の価格を金一〇、三〇〇、〇〇〇円と見積り、土地建物の現状(借地権が存在し、建物が存在するものとして)価格を金五八、〇〇〇、〇〇〇円と算定して売買契約書の金額とし、また土地価格に対する借地権の価格をほぼ五〇パーセントとみて本件土地上の建物賃借人の建物明渡補償料および訴外長尾光雄、原告の借地権排除、土地明渡の補償料を金三〇、〇〇〇、〇〇〇円と算定して覚書の金額としたことが認められ、他に右認定に反する証拠がない。
(四) そして成立に争のない甲第八号証、証人長尾光雄の証言の一部、弁論の全趣旨によると本件土地の売買代金の配分について、昭和三六年三月三一日付で訴外長尾伊三雄と原告、訴外長尾光雄、同長尾晴雄との間で土地建物明渡の補償料について覚書を作成したのであるが、その覚書において、訴外長尾伊三雄は原告に対し、土地建物明渡についての物的損害に対する補償として同年九月三〇日現在の帳簿価格の三倍相当額を、土地建物明渡についての営業権補償料として前期純利益金の按分修正額の五ケ年相当額を支払うことを定め、これにもとづき訴外長尾伊三雄は原告に対し、本件事業年度中に原告所有の建物自体の補償として金六八八、〇二九円、設備の補償として金一五、八三四円、営業権補償として金九、六四九、六〇五円を支払つたことが認められ、証人長尾光雄の証言中右認定に反する部分は後記のとおり信用し難く、他に右認定に反する証拠がない。
原告は守口市に工場、事務所を有しており、訴外長尾伊三雄から営業補償費を貰う権利もなく、またその必要もないから右金九、六四九、六〇五円は借地権の対価そのものであつて営業権の補償ではないと主張し、成立に争のない甲第九号証、証人長尾光雄の証言によると昭和三五年八、九月頃から守口市大日町旧大庭六番三四一番地に土地一、〇三二・九平方メートル(三一三坪)とその地上に鉄骨スレート葺二階建工場床面積四四二・二平方メートル(一三四坪)木造鉄板葺二階建階下事務所三三平方メートル(一〇坪)等の建物を有していたことが認められるけれども、原告が本件土地建物を明渡すことによつて原告所有の別紙物件目録第二(三)記載の建物、同目録第二(二)記載の建物の階下部分、同目録第二(三)の建物の西の物置場(空地)八〇坪の使用ができなくなり、原告の事業所の過半を失う結果になること、成立に争のない乙第二号証の一ないし四、証人中道宗一の証言によると本件土地附近において土地価格に対する借地権の価格はほぼ五〇パーセントと評価されていることが認められるところ、本件土地の売買価格に比して原告の一二五坪二合六勺の借地権および別紙物件目録第二(二)の建物の階下部分九〇坪余りの賃借権放棄のための対価(成立に争のない甲第八号証によると前記覚書中に右建物二階のアパート居住者については居室明渡の補償料を訴外長尾光雄において支払う旨定められているのに階下部分使用者である原告に対する補償料について何等記載がなく、証人長尾光雄の証言によると訴外長尾光雄が原告に対し右建物明渡について全く補償していないことが認められる)として右九、六四九、六〇五円では不当に少額であること、右覚書の記載および右金九、六四九、六〇五円の算定方法を考え合せると右金員は原告のための純然たる営業権補償料であつて、原告の借地権消滅の対価を含むものと解することができず、右認定に反する証人長尾光雄の証言はこれを採用することができない。
(五) そこで原告の借地権消滅に対する対価として何程が相当であるかについて考えてみるに、前記認定のとおり本件土地附近においては借地権の価格は土地価格の五〇パーセントと評価されているから本件土地価格を売買契約書記載の金五八、〇〇〇、〇〇〇円から前記認定の建物自体の価格金一〇、三〇〇、〇〇〇円を差引いた金四七、七〇〇、〇〇〇円とみても、(実際の本件土地価格は総額金八八、〇〇〇、〇〇〇円から建物自体の価格金一〇、三〇〇、〇〇〇円を差引いた金七七、七〇〇、〇〇〇円とみられる)金九、二四三、〇六四円(<省略>)となる。
(六) ところで借地権に価格の認められる地域において借地権を譲渡もしくは消滅させる場合には借地権者に借地権価格相当の対価を支払うことは公知の事実であるところ、通常ならば原告は右借地権を消滅させるについて、少くとも訴外長尾伊三雄から金九、二四三、〇六四円を受領することができたのに、それを全く受領していないのであるから、同族会社である原告の行為計算は法人税法(旧法)第三一条の三第一項の規定にもとづく政府の認定により右金額が本件事業年度の原告の益金として加算されることになる。
(なお右金額九、二四三、〇六四円と前記営業補償料金九、六四九、六〇五円の合計額金一八、〇九二、六六九円を前記三〇、〇〇〇、〇〇〇円の配分とみても原告の本件土地およびその地上建物の使用状況からみて決して多すぎる額ではない。)
四 ところで成立に争のない甲第一号証、乙第三、四号証、弁論の全趣旨によると原告が本件事業年度についての法人税の確定申告に前記営業補償金九、六四九、六〇五円のうち金一、九二九、九二一円を益金に計上し、その差額金七、七一九、六八四円を除外していることが認められ、他に右認定に反する証拠が見当らないところ、税法上右のような益金の繰延が認められていないのであるから右金七、七一九、六八四円は原告の本件事業年度の益金として計上しなければならないものである。
五 そうすると右金七、七一九、六八四円と第三項で認定の金九、二四三、〇六四円の合計金一六、九六三、二八八円は原告の本件事業年度の益金として原告の確定申告額に加算すべきものであるところ、その金額は被告が借地権価格相当分の利益の計上洩れとして加算した金一一、二三八、八九〇円を上廻ることになり、結局被告の本件更正処分は正当なことになる。
六 以上認定したところから、原告の本訴請求は理由のないことが明らかであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 長谷喜仁 裁判官 福井厚士)
物件目録
第一 土地
大阪市北区南同心町二丁目二七番地
一、宅地 一、〇六八・四六平方メートル(三二三坪二合一勺)
第二 建物等
(一)
(1) 大阪市北区南同心町二丁目二七番地上 家屋番号第一〇七番
一 木造瓦葺二階建居宅一棟 床面積一〇一・八八平方メートル(三〇坪八合二勺)
(2) 同地上
一 右増築部分 床面積五二・一六平方メートル(一五坪七合八勺)
(4) 同地上
一 木造瓦茸平家建下家一棟 床面積六一・八一平方メートル(一八坪七合)
(4) 同地上
一 木造鉄板葺平家建バラツク一棟 床面積二一・一五平方メートル(六坪四合)
(5) 同地上
一 木造鉄板葺平家建居宅 一棟 床面積一六・五二平方メートル(五坪)
(6) 同地上
一 木造鉄板葺平家建居宅一棟 床面積一六・五二平方メートル(五坪)
(7) 同地上
一 木造鉄板葺二階建居宅一棟 床面積三六・三六平方メートル(一一坪)
(8) 同地上
一 附属設備
塀、造園、給水塔
(二)
同地上 家屋番号第一二一号
一 木造鉄板葺二階建居宅一棟 床面積五九五・七三平方メートル(一八〇坪二合一勺)
(三)
一 木造小浪鉄板葺中二階建倉庫一棟 床面積一九八・三四平方メートル(六〇坪)
以上
建物配置図
土地 大阪市北区南同心町2丁目27番地
宅地323.21坪(公簿)
<省略>